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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)305号 判決 1983年12月09日

上告人

中西恵

右訴訟代理人弁護士

佐伯幸男

浅井利一

被上告人

右代表者法務大臣

秦野章

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐伯幸男、同浅井利一の上告理由第一点及び第三点について

国が公務員に対して負担する安全配慮義務は、国が公務遂行にあたって支配管理する人的及び物的環境から生じうべき危険の防止について信義則上負担するものであるから、国は、自衛隊員を公務の遂行として自衛隊機に搭乗させる場合には、右自衛隊員に対する安全配慮義務として、構造上の欠陥のない航空機を航空の用に供し、かつ、その整備を十全にして航空機自体から生ずべき危険を防止するとともに、航空機の操縦士としてその任に適する技能を有する者を選任配置し、かつ、適切な航空交通管制の実施等につき配慮して航空機の運航から生ずる危険を防止すべき義務を負うが、操縦者において航空法その他の法令等に基づき当然に負うべきものとされる通常の操縦上の注意義務及び国において前示の人的・物的諸条件の整備とは無関係に搭乗員を安全に輸送すべきものとする所論の義務は、右安全配慮義務に含まれるものではないと解すべきところ(最高裁昭和五五年(オ)第五七九号同五八年五月二七日第二小法廷判決・民集三七巻四号四七七頁参照)、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、右と同旨の見解に基づき、本件事故は本件自衛隊機の操縦士の通常の操縦上の注意義務違反によって発生したものであって、被上告人に安全配慮義務違反はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審において主張・立証されなかった事項に基づき原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 宮崎梧一 大橋進 牧圭次)

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